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父の限界
どこか遠いところでつながっている
今、私は彼と一緒に暮らしている
兄弟のいない者同士、家族が少ないというところでよく似ている
現在、私には父がいる
別に暮らしている
29歳はなれた男性で、2回の離婚を経験し、結婚はもうこりごりだといっている
彼の兄弟とも疎遠なほうが気楽でイイなどという
昨年、新築した家にひとり住まい、初の2階家でなかなか慣れないようだ
2年前に軽い脳梗塞の発作を起こし、10日間の入院をしたが経過も良く、しびれがあるくらいで、ふつうの人以上にアクティブな毎日を送っている
ただ、少し不安を強く感じてしまう神経症状がある
それが歳を経るごとに目につくようになった
そのことを、本人はわかっていない
仕事は46歳のときに依願退職、2、3の転職をし、今の職業にいたる
営業が得意なので、全職歴は”営業”だ
人当たりが良いので、好感を持たれることが多い
ただ、人生何事もカケヒキ的発想が若干の人間を遠ざける
知り合いは多いが、友達はとても少ないように見うけられる
ケチではないが、もったいないが先に出て、捨てるのが下手だ
無類の本好き
建て替え前の家はその重みで傾いていた
稀少本好きでもある
彼自認するところの高価な物は○百万するとのこと
一人旅が好きでもある
昨年は家の建築中に東北地方を回ってきた
話にこそ出ないが、毎年どこかしらに行ってはイイ思いをしてきているようだ
にんにくの焼酎漬が好きだ
朝から口にするので、午後に会っても臭い
寿司屋の息子だったこともあり、マグロにはこだわりがある
彼曰く、「マグロはヅケだね」
かつおなども好きで、初鰹のたたきは一皿ぺろりだ
ひかりものはアレルギーを起こすにもかかわらず、コハダが得意
彼の母親が得意にして作っていたこともあるからなのだろう
ただ、彼の母親とは仲がうまくなかった
良く喧嘩をしては、箸を投げる、椀物を投げつける、着ているものをつかんで引きずりまわすなど
年嵩の男が自分の母親にするようなことではない、力任せな面を見せてくれていた
時代劇とお笑いが好きだ
吉右衛門が出る、”まげもの”は見逃さない
ナインティーンナインの岡村くんが好きなので、相方はいつも酷評を食らう
007シリーズも好きで全て観ているのでいるのではないかと思う
それも劇場で、プレヴューらしい
最近はまったのは、「羊たちの沈黙」と「薔薇の名前」だ
原作から読むタイプなので、劇評も手厳しい
ただ、語彙が少なく話の意味の成す部分では、くいちがいが多い
仕事の付き合いで始めたゴルフにのめった時もあった
週1回はコースに出て、疲れて帰ってきていた
スコアで機嫌が変わり、練習の素振りにもそんなことが反映され、自打球を左目に当て、半年、眼帯生活をしていたこともある
自分の痛みから他人の痛みを思いやるということもないので、病気には疎い
私が体調不良から入院し、エイズを発症しているとわかってから、父は私に触ろうとしなかったらしい
”らしい”と書くのは、私の彼から後になって聞いたことで私の知らない隠された出来事だった為だ
彼の考えから、言える時が来るまでは言わないでおこうと決めていたようなのだ
そう言われてみれば、入院後、しばらくしてからなんとなくふつうの接触があったな、と思い出すことができる
脳症のボケた頭では、これくらいを振りかえるのが関の山なのが幸いしているのだろうか、ショックを感じないでいられている
それに加えて、元来のあきらめの速さもあって、しようのない事のひとつになっている
私の父もひとりの人間なので、その付き合いにも限りがある
私の病気のことについて、父は知り得る限りの文献を彼なりに調べ上げ、良かれと思い私と彼に報告してくれる
なにかにつけ私の希望への協力も申し出てくれる
しかし、そんなことをしてくれ、言ってくれる父の言葉には、”いいよ、いいよ”と、その3文字が繰り返される
私にはその3文字が、”いいよ、いいよ、もう来ないでくれよ”と、言っているような気がする
それが、父なりの受け入れ方なのだろう
受け入れてくれているので、私はそれ以上、先に進もうとは思わない
父のためにも、その限界を見せるのがイヤだからだ
今現在、私と彼、そして、父は仲が良い
月に一度、どこかに出向いて”旨いもの”を食べたりしている
ただ、お互いにどこか妥協しながら、できる範囲で、図々しくならない程度にしている
それが、夫々の思いやりで、限界なのだ
2003年3月17日
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