「An Early Frost」からはじまるハワイ旅行
2001年10月に6周年記念のお祝いにハワイに行った
出会ってから6年である
初めての海外旅行、それもハワイで指輪をわたされ、言葉が出なくなったまましばらく抱き合い
ホテルのテラスで計ることができないほどの濃密な時間が流れていった・・・
5周年にあたる2000年は私の入院もあって病室でお祝いをした
彼がバラの花を1本花瓶にいけ、「また来年もナ」とキスをしてくれた
それから半年、私は全部の時間を病院で、彼はそのお見舞いと生活の往復にほとんどを費やした
しかし、私はそのことの半分も覚えていない
そんなでも、次の記念日がやってきて、オアフはホノルルでの旅行になった
ハワイは島なのでつねに風は止まず、適度な温度、湿気のない快適なところだ
ホテル前のビーチに行ったり街中の人の少ないレストランで食事をしたり散歩をしたり
無理のないゆっくりとした時間を過ごしていた
とあるビーチを二人でのんびりと歩いていると車椅子に乗った人とそれを押す介助のふたり連れとすれ違った
私は彼の後ろに回ってその二人をよけ何気なく行過ぎた
しばらくして私の彼が「車椅子の人いたでしょお」といった
そう言えばと思い返しうなずくと
「彼、エイズの人だよ」という
そう言われれば、げっそりと細くなった身体に目が大きく見開かれて一時期の自分のようだった
でも、その表情はあきらめや悲しみなどの暗い影はなくほんのりと顔色のよい穏やかな顔立ちだった
そして、車椅子を押すもうひとりの男性も後ろからニコニコと彼に笑みを送っていた
優しそうな人だった
私の時間は少しそこで止まったように感じられた
ハワイではエイズ患者への公的な援助は打ち切られている
そのため、日々の食事にも困っている患者が多いそうだ
慢性病としてのエイズはこんな扱いになり、暮らしていくことさえ困難になってきているという
これでは薬が開発される前の、死を待つだけの人生と同じだ
・・・なのに、あのふたりの穏やかな空気
立ち入れないような温かみを感じた
その帰り道、住宅地を抜けカラカウア通りにでてしばらく行くと、またあの二人がこちらに向かってきた
「ね、」私の彼が声にならないような口の動きで私を促した
だんだんと近づいてくる
彼の横をとおり、私のそばに来た時、車椅子に乗っていた男性が私に微笑んだ
「Thank you」
そうひとこと言って何気なく通り過ぎていった
私はすれ違うとき、にこりとしただけでなにも言えなかった
言うもなにも、初めて日本人ではない同じ病気の人に偶然に2回も会うということに戸惑いを持っていたのだ
やせた肢体におちくぼんだ面立ち
自分とは別の出来事に感じられ、その違いに再び時間が止まってしまったようだった
ホノルルにはゲイ向けの店があり、「80%Straight」というショップが有名だ
私たちもホノルルに来たときは必ずのぞくようにしている
アメリカならではの下着やフィットネス・ウェアなどが充実している
もちろん、ビデオやDVDなどもあり見ていて楽しい
そのときもなにとはなくラベルを眺めていると
『Early Frost』
日本語で「早霜」
NHKで放送したドラマのビデオが原語であった
それなりの値段だったので今度来たときのお楽しみということで買わなかったが
あれから何年も経っているのにまだ現役でしかも一番目立つ位置に立てかけてあった
そして、もうひとつ、その店のカウンターの前に
「エイズ患者への食事代」という募金箱があった
中身が透けて見えるようになっている
それなりにいっぱい入っている
私がその箱をまじまじと見ていると私の彼が何ドル札かをそこに入れた
ふふーんと、彼が微笑んでいた
私もすかさず手に触ったドル札をその中に差し入れた
紙が落ちていくのを確かめて、少しでも長く生きてほしいという願いを込めてまた箱を見つめた
エイズ先進国といわれているここでさえ、こんな摩擦がある
私の国、日本はこれからどういう道を選ぶのだろう
もう少ししたら、もう一度ハワイに行きたい
もしかしたら、あのふたりにまた会えるかもしれない
そうしたら
「Hi! How are you?」と声をかけようと思う
k1
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