見た感じの華奢な風貌からと思えない太い声で医師は目の中をのぞいたまま更に続けた
「左目に強い炎症があるね。色の変化のほかに何か変わったものが見えない?」
生唾ごっくんである
「わっかみたいなものが見えないかなあ…」
「ないです」ため息に似た声で答えた
目の中をのぞいたあとは色盲の検査だった
色の付いた小さな点がいっぱいある小冊子をめくる、あの検査だった
ぺらぺらとめくるページの中、あかは赤く、白はやや黄色っぽく見えていたが、そのほかの色はピンクがかったり茶色や紫っぽく見えた
「色盲が出てきてるねぇ」そう言いながら、そそくさと目玉の模型を出してきて、次の説明をしようとしている
「さっき言った炎症はね、ちょうど網膜に出ていてね…」うわのそらとはこのことを言ったのだろう、聞いた言葉がすかすかと耳から漏れていく
「網膜の見える中心にね、炎症が出ていて、まるでコロニーを作っているような感じでね…
このままの状態で行くと炎症がひどくなって網膜に浮腫がおこり、網膜剥離をおこしてやがて失明することになるねぇ」
サイトメガロ網膜症、ヘルペス・ウイルスと似ていて体のあちこちで悪さをする、ごくありふれたウイルス
それが目にいたずらをするとその能力を奪ってしまう

それが自分にも始まったのだ

「今日や明日に目が見えなくなるわけじゃないからね、点滴をしてウイルスを抑えましょう」
その日から4ヶ月、挿す場所が無くなるほどの点滴治療をした

左腕から始まった点滴は、挿す血管を1週間前後で変えながら続けられた
「ガンシクロビル」という薬は通称、「デノシン」という名で関係者には通じている
強い薬ですぐに血管をぼろぼろにしてしまう
最初の頃は10日くらいはもったが、だんだんと薬の影響で脆くなっていき、しまいには数日も続けられなくなってしまった
点滴針が刺さっているところから点滴液や血液が漏れるようになると、セントラル・ラインを入れることになる
肩の鎖骨の下の血管から直接、薬を流し込む処置をすることになる
まず、麻酔をし、穴をあける器具で鎖骨の下まで進む
血管に達すると管をいれ心臓まで行く血管の、ちょうど、のどの下の辺りまでそれを入れることになる
それをしてしまえば、何日で血管がだめになるかなどと心配をする必要がなくなる
行動にすこしだけ制限があるものの、患者の負担も軽くなる
私は体から管を出して、点滴台をお供に、1ヶ月を過ごした
この間に、目の中の炎症は良くなったり悪くなったりしていた
視界の中に丸いような感じに見えなくなるものが出てくるのだが、まるで小さな砂嵐のようだ
その砂嵐は形をはっきりとあらわすようになり、輪郭が出てくる
それがひとつふたつと増え、片目だけではなく両方の目にも病変が現れる
そうなってくると実にうっとうしい
しかし、それでとまっていれば言いのだが、それから先があった
目の中の丸いものは、ヘルペスと同じようなもので、その膨らんだものの中には液体が入っている
それが漏れ出すと視界はぐにゃぐにゃになり、始終水の中にいるような感じだ
この症状の診断をするのには「蛍光眼底検査」という事をする
点滴をして光る薬品を入れると、目の中で漏れているところから噴水のようにふきだしているのが見えるそうだ
そのままでいると網膜がはがれ、失明をしてしまうという
自然に塞がらないでいる場合は、レーザーで焼きつぶすということもするらしい
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